会計事務所や税理士法人で働く税理士の中には、「事業会社側で働いてみたい」と考える人が一定数います。顧問先を外から支援する立場から、一つの企業の中で数字を動かす立場へ。この転身は、働き方も求められる能力も大きく変わります。「事務所より楽そう」というイメージだけで飛び込むと、思わぬギャップに戸惑うことも。この記事では、税理士が一般事業会社の経理・財務へ転職するリアルを、良い面も悪い面も含めて正直にお伝えします。
事務所と事業会社、決定的な違いは「立場」
まず本質から。会計事務所は「顧客に税務サービスを提供する側」ですが、事業会社の経理は「自社の数字を管理する側」です。事務所では複数の顧問先を外から支援しますが、事業会社では一つの会社の内部に入り込み、当事者として数字に責任を持ちます。この立場の違いが、仕事の内容も評価のされ方も一変させます。「サービス業から事業当事者へ」の転換と理解するとわかりやすいでしょう。
税理士が事業会社で担う仕事
税理士が事業会社に転職した場合、単なる経理担当ではなく、税務のプロとしての役割を期待されます。具体的には、法人税・消費税の申告対応、税務調査への対応、グループ会社を含む税務戦略、決算業務、経営陣への財務報告などです。特に、顧問税理士との橋渡し役として、専門知識を活かして社内の税務レベルを引き上げる役割は、税理士ならではの価値です。経理の実務に加えて、税務の司令塔として機能できる点が強みになります。
事業会社に転職するメリット
1. ワークライフバランスが改善しやすい
事務所の繁忙期のような、確定申告や複数顧問先の決算が重なる激務は基本的にありません。もちろん自社の決算期は忙しくなりますが、全体としては生活のリズムが安定しやすい。プライベートを大切にしたい人には大きな魅力です。
2. 一つの事業に深く関われる
複数の顧問先を薄く広く見るのではなく、一つの会社の成長に当事者として深く関われます。自分の仕事が会社の業績に直結する実感は、事務所では得にくいやりがいです。
3. 経営に近い立場でキャリアを広げられる
経理・財務から経営企画、さらにはCFOへとステップアップする道が開けます。税務の専門性を土台に、経営全般に関わるキャリアを築けるのは大きな可能性です。
4. 安定した雇用
事務所と比べ、大企業であれば雇用の安定性や福利厚生が充実している場合が多い。長期的な生活設計を立てやすいのも利点です。
事業会社に転職するデメリット・注意点
1. 税務専門の仕事ばかりではない
会社によっては、税務よりも一般的な経理業務(伝票処理、支払管理など)の比重が大きいこともあります。「税理士としての専門性を活かしたい」と思っていたのに、ルーティン業務中心でギャップを感じるケースもあります。応募前に、担当業務の内容をしっかり確認すべきです。
2. 専門性が伸び悩む可能性
一社の税務だけを扱うため、事務所時代のように多様な案件に触れる機会は減ります。放っておくと専門性が固定化・陳腐化するリスクがあるため、自己研鑽を続ける意識が必要です。
3. 独立には直結しにくい
顧客対応や事務所運営の経験が積めないため、将来独立を考えるなら遠回りになる可能性があります。事業会社は「独立準備」よりも「安定と経営キャリア」を求める人に向いています。
年収の実感値
2026年時点の相場感として、事業会社の経理・財務における税理士は、おおむね600〜900万円程度が中心です。大企業や外資系、管理職ポジションであれば1,000万円を超えることもあります。事務所時代と比べて大きく下がることは少なく、ワークライフバランスの改善を考えれば、総合的な満足度は高くなりやすいと言えます。
どんな人に向いているか
私の考えでは、事業会社への転職が向いているのは、生活の安定とワークライフバランスを重視する人、一つの事業にじっくり関わりたい人、そして将来CFOなど経営層を目指したい人です。逆に、多様な案件に触れ続けたい人や独立志向の強い人は、慎重に検討すべきです。自分がキャリアに何を求めるかを明確にしてから決断してください。
まとめ|「安定と経営キャリア」を求めるなら有力
事業会社の経理・財務は、税理士の専門性を活かしながら、安定した環境で経営に近いキャリアを築ける魅力的な選択肢です。ただし「事務所より楽」という漠然としたイメージだけで飛び込むのは危険です。担当業務の内容、専門性を伸ばせるか、キャリアの方向性が自分の目標と合うか——これらを見極めたうえで選べば、事業会社は非常に満足度の高い職場になります。
※本記事は2026年時点の情報および筆者の見解をもとに執筆しています。年収などの数値は目安であり、企業規模や役職により変動します。



