簿記の仕事はなくなるのか?変わる仕事と変わらない仕事

簿記の仕事というと地味なイメージを持たれがちですが、実は企業経営の核で、重要な役割を担っています。しかし、近年では技術の進歩とともに「簿記の仕事がなくなる」という声を聞いたことがありませんか。

本記事では、AIや自動化技術の進展などが、簿記の仕事に与える影響を解説します。簿記の仕事が、この先どうなっていくのか確認していきましょう。

なぜ「簿記の仕事がなくなる」と言われるのか

簿記の仕事が将来的になくなるという話題は、盛んに議論されています。なぜこのような状況に直面しているのか、その背景を詳しく解説します。

AIと自動化の進展

AIと自動化が急速に進化している現在、多くの業務が新しい技術によって効率化されています。特に、繰り返し行う作業やルールに基づいて処理する業務は、AIが得意とする領域です。

簿記の仕事も例外ではなく、日々の取引の記録や仕訳、決算書の作成など、定型的な作業が多いため、AIによる自動化の対象になりやすいです。

そのため、簿記担当者による手作業の時間を大幅に減らし、企業はコスト削減と作業の速度向上を実現できます。

日本国内研究所とアメリカ専門家の共同研究結果

2015年、ある日本の研究所がアメリカの専門家と共同で行った研究では、日本の労働人口の約半数がAIやロボットによって代替される可能性があると報告しました。

この研究結果では「経理事務員」がAIによって代替されやすい職種の一つとして挙げられています。

参考:野村総合研究所|日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に

AIによって代替されやすい簿記業務

ここからは、特にAIによって代替されやすい簿記業務の具体例を紹介します。

仕訳業務の自動化

仕訳業務は、企業の経済活動を会計帳簿に記録する作業で、簿記担当者が手作業で伝票を確認し、帳簿に記入します。
AI技術を搭載した会計ソフトウェアを利用すれば、この作業の大幅な簡素化が可能です。

例えば、スキャンされた伝票から情報を読み取り、自動的に適切な勘定科目に仕訳できます。

支払い処理の効率化

支払い処理は、担当者が請求書を一枚ずつ確認し、支払いの準備を行います。
AIを活用した会計システムでは、請求書の内容を自動的に解析し、支払いが適切かどうかを判断できます。

さらに、承認された支払いを自動的に処理し、取引を記録することも可能です。

税務申告の簡素化

税務申告は、企業が利益に応じた税金を報告し、納税するプロセスです。
税務申告の業務は非常に煩雑で、多大な時間を費やしますが、AIにより大幅に簡素化できます。

売上や経費、利益といった情報を基に、自動で税額を計算し、申告書類を準備することが可能です。

決算書作成の自動化

決算書は年に一度、企業が年度の経営成績を報告するために作成される書類です。
AI技術を利用すれば、蓄積された財務データを分析し、損益計算書や貸借対照表などの決算書を自動で生成できます。

手動での数値集計や、文書作成などの時間と労力の節約が可能になります。

AIでは代替できない簿記業務

AIにより、簿記業務の一部が変化していることは確かですが、AIでは代替できない業務もまだまだ存在しています。
ここでは、AIでは代替が難しいとされる簿記業務に焦点を当てていきます。

複雑な課題の分析

企業の経営状態や財務状況は常に変動しており、経営戦略を立案するためには、複雑な課題を多角的に分析する能力が必要です。

例えば、コスト削減を目的とした部門間の再編成が行われた場合、社員のモチベーションや職場の雰囲気に大きな影響を与えます。

単に数字上の効果だけでなく、社員の満足度やチームワークなど、人の心理的な側面を考慮に入れた分析はAIには難しいのが現状です。

重要な業務判断

企業運営における財務に関わる意思決定は、将来に大きな影響を及ぼすため、慎重に行う必要があります。
例えば、新たな業務提携の検討においては、提携先の企業文化、経営陣のビジョンや倫理観、顧客に与える心理的な影響など、定量化できない要素を考慮しなければなりません。

人間関係の理解や倫理的判断、文化的な洞察力を要する業務判断は、引き続き人間の役割が重要になります。

対人コミュニケーションが必要な業務

経理担当者は、社内の様々な部署や、外部のクライアント、税理士、監査法人などと密接に関わります。
このような状況では、相手の意見を傾聴し、自身の考えを明確に伝えるコミュニケーション能力が重要になります。

対人スキルは、人間特有の感情や感性を要するため、AIでは代替が困難です。

システムのメンテナンスと改善

現代の経理業務では様々な会計システムが利用され、運用する上でメンテナンスや定期的な改善が必要となります。
システムの不具合を発見し、適切な解決策を講じる業務は、専門的なIT知識と経験が求められます。

システムとユーザー双方の視点からの洞察が必要であり、AIだけでは対応が難しい領域です。

簿記職で生き残るために必要なスキル

今後、簿記職(経理職)として生き残るためには、AIでは代替できない経理の専門スキルを身につけなければなりません。

以下では、どのような経理の専門スキルを身につけるべきかを詳しく解説します。

財務・会計・税務関連の知識

企業の財務状況を正確に理解し、適切な報告を行うためには、会計原則や税法などの深い理解が必要になります。

さらに、最新の会計基準や税制改正にも常にアンテナを張り、知識を更新し続けなければなりません。

例えば、消費税率の変更や新たな税制措置などが施行された際には、企業への影響を正確に把握し、対応策を講じます。

このような専門知識は、継続的な学習と実務経験を通じて身につけられます。

資金運用に関する分析力

資金運用に関する分析力は、企業の資金繰りを最適化し、経営の安定性を高めるために不可欠です。

市場の変動や事業の拡大に伴う資金ニーズを正確に予測し、投資や資金調達の判断を下すためには、高度な分析力が求められます。

また、不測の事態に対するリスク管理や将来の財務計画の策定も、緻密な分析を基に行われます。
このような分析力は、実務経験やケーススタディを通じて養うことが可能です。

M&Aなどの高度な専門知識

経理業務の中には、企業買収や合併(M&A)のように、高度な専門知識を要する分野があります。
M&Aは企業戦略の一環として、企業の成長や事業の多様化を図る重要な手段です。

このようなプロジェクトでは、財務分析、契約交渉、デューデリジェンス(買収対象の調査)など、専門的な知識と技術が求められます。

例えば、M&Aの過程では、買収対象の企業価値を適切に評価するために、財務諸表の分析や将来のキャッシュフローの予測などが不可欠です。

ITスキル

現代の経理業務では、会計ソフトの活用はもちろん、データ分析ツールやクラウドサービスなど、様々なITツールが使用されています。
これらのツールを効果的に使用するためには、基本的なITスキルが不可欠です。

例えば、Excelの高度な関数やマクロを使いこなすことで、複雑なデータ分析や報告書の作成が効率的に行えます。

また、会計ソフトのカスタマイズやクラウドサービスの活用により、業務プロセスの自動化や効率化を図ることが可能です。

まとめ

AIと自動化の進展は、簿記の仕事のあり方を大きく変えつつあります。

しかし、変化に対応し、さらに人材価値を高めるには、AIでは代替できないスキルを身につけることが必要です。スキルを磨くことにより、経理職は今後も企業の重要な役割を担い、新たな価値を提供し続けられるでしょう。