「税理士は飽和している」という声を聞く一方で、「税理士業界は深刻な人手不足だ」という声もあります。一体どちらが本当なのでしょうか。実は、この一見矛盾する二つの状況が、同時に起きているのが今の税理士業界です。この構造を正しく理解することは、転職や就職を考えるうえで極めて重要です。人手不足の実態を知れば、自分がどう立ち回るべきかが見えてきます。この記事では、税理士業界の人手不足と採用市場の今後について、その実態と背景を率直に解説します。市場を味方につけたい方に向けた内容です。
税理士業界は「深刻な人手不足」
まず結論から。現在の税理士業界は、深刻な人手不足の状態にあります。多くの会計事務所や税理士法人が、人材の確保に苦労しています。特に、実務経験のある有資格者や、即戦力となる人材の獲得競争は激しい。これは、転職・就職を考える人にとって、極めて有利な「売り手市場」であることを意味します。「税理士は余っている」というイメージとは裏腹に、現場では人が足りない。この現実を知ることが、市場を有利に活用する第一歩です。
なぜ人手不足が起きているのか
1. 税理士試験の受験者数の減少
近年、税理士試験の受験者数は減少傾向にあります。新たに業界に入る人材が減れば、当然、供給は細ります。これが人手不足の根本的な要因の一つです。
2. 税理士の高齢化
税理士業界は高齢化が進んでおり、ベテラン税理士の引退が増えています。一方で、それを補う若手の供給が追いついていません。世代交代がうまく進んでいないのです。
3. 業務量の増加と多様化
税制の複雑化、インボイス制度や電子帳簿保存法への対応、顧客ニーズの多様化により、業務量は増えています。仕事は増えるのに人は増えない、という構造です。
「飽和」と「人手不足」が同時に起きる理由
ここで、冒頭の矛盾を解き明かしましょう。「飽和」と言われるのは、主に価格競争の側面です。汎用的な記帳・申告業務では事務所間の競争が激しく、その意味では「飽和」しています。一方で「人手不足」なのは、その業務をこなす人材が足りないからです。つまり、「単純業務は競争が激しいが、それをこなす人手は足りない」という構造なのです。この矛盾を理解すれば、単純業務で戦うのではなく、付加価値の高い領域で勝負すべきだという戦略も見えてきます。
採用市場の今後の見通し
今後の採用市場はどうなるか。私の見立てでは、人手不足の傾向は当面続くと考えられます。受験者数の急回復は見込みにくく、高齢化も進むため、有資格者や経験者への需要は根強く残るでしょう。特に、経営コンサルティングやIT活用、専門分野に強い人材の価値は、今後さらに高まります。ただし、AIやクラウド会計の進化で単純業務の需要は減るため、「作業しかできない人材」の市場価値は下がっていく可能性があります。求められる人材の「質」が変わっていく点には注意が必要です。
売り手市場をどう活用するか
この売り手市場を、転職・就職者はどう活用すべきか。まず、強気に良い条件を狙うこと。人手不足の今は、年収や働き方の交渉で有利に立てます。自分の価値を安売りする必要はありません。次に、複数の選択肢を比較して選ぶこと。売り手市場だからこそ、じっくり良い職場を選べます。ただし、有利だからといって安易に職場を転々とするのは考えもの。市場が有利なうちに、腰を据えて成長できる良い環境を選ぶことが、長期的なキャリアには重要です。
市場価値の高い人材になるために
売り手市場とはいえ、すべての人材が等しく求められるわけではありません。特に価値が高いのは、実務経験が豊富な人、経営コンサルティングができる人、IT・DXに強い人、専門分野を持つ人です。逆に、単純作業しかできない人材の価値は、今後相対的に下がっていきます。だからこそ、売り手市場に安住せず、市場価値の高いスキルを磨き続けることが大切です。有利な市場環境を活かしつつ、自分自身の価値も高めていく。この両輪が、これからの時代を勝ち抜く鍵になります。
まとめ|人手不足の今こそ、賢く立ち回る
税理士業界は、単純業務の「飽和」と人材の「不足」が同時に起きる、独特の構造にあります。全体としては深刻な人手不足であり、転職・就職には有利な売り手市場です。受験者減少と高齢化により、この傾向は当面続くでしょう。この有利な環境を活かし、強気に良い条件を狙い、じっくり職場を選ぶべきです。ただし、求められる人材の質は変化しており、単純作業しかできない人材の価値は下がります。市場を味方につけつつ、経営力・IT力・専門性を磨いて、市場価値の高い人材を目指してください。
※本記事は2026年時点の情報および筆者の見解をもとに執筆しています。市場動向は変動します。
